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昨日と違う風 その1

   1
 泣いていた。その時、彼女は激しく泣いていた。とっても激しく泣いていた。だが、泣き声はだれにも聞こえなかった。木々や草花によって隠されながらも、一人でエルフの少女は泣いていた。
 泣き疲れて、気付いてみると、土気色の肌をしてまるまると太った小男が心配そうな顔をして彼女の顔を見下ろしていた。
 夢である。40年前を思い出した夢であった。彼女は、冷や汗を大量にかいていた。
 彼女は森の妖精族であるエルフの女性であり、名をシキャレという。
 話は戻る。今から40年前、シキャレは両親に連れられてエルフの里を出て、旅を始めたばかりだった。しかし、ある夜に街道を歩いていたときに山賊に襲われ、両親は死んだ。両親は最後の力で、風と木々の精霊を行使して森にシキャレを隠したのである。
 山賊が去って、しばらくたったあと、そこにドワーフの男性が通りかかったのであった。
 さて、ドワーフとは大地の妖精であり、土気色の肌を持ち、人間の腰ほどの大きさしかない小男である。手先は器用で、鉱物を見事な細工物に変えることができる方も多い。説明を終えて話に戻る。
 そのドワーフは、エルフの死体を丁寧に埋葬して、神にエルフの魂が安らかに眠るように祈った。祈った神は、埋葬を司るヨグナであった。


   
 その昨晩、一人の子供が料理屋の二階の窓から空を見ていた。子供というのは間違いかもしれない。彼はグラスランナーという草原の妖精である。その目からは、子供の目には見られない叡知が感じ取れる。このグラスランナーは、料理人であり、賢者でもある。名をホスマという。ホスマはこの下町でも評判の料理人である。この料理人は一応盗賊ギルドにも加入してはいるが、盗みはしない盗賊である。ホスマのおかげで病弱な親父さんもこの〈夕暮れコボルト〉亭をやっていけるのであった。
 ホスマは空を見上げながら、友人のサベックの誘いについて考えていた。サベックは盗賊ギルドで育てられたハーフエルフで、ホスマと仲良く、〈夕暮れコボルト〉亭の常連である。近頃、冒険に憧れていて、ホスマに一緒に出かけようと誘っているのである。
 突然、空に動く点があった。何かの兆事であろうか、とホスマは思った。北西の方に星は少しずつ大きくなりながら流れていった。
「ああ、『流星、流星、星は流れ、星は落ちる』か。なぜ星は落ちるのだろうか……」
 いつもと同じように星は光り、月は輝いていた。いつもと同じように……。
 朝、太陽がさんざんと誇らしげに輝いていた。太陽に遠慮して星は姿々を現さないでいた。
 ホスマは朝食をつくって、今日の料理の仕込みをしていた。
「グラスランナーは、旅する種族であるということは私だって知っているよ。ホスマ、わしらやこの店のことはいいから、……自分の信じる道を進むべきだよ」
 親父さんは涙を流していた。四〇の時に妻に先立たれ、ホスマが住み着くまで、一人で〈夕暮れコボルト〉亭を支えてきたのであった。
「私がいなくなったら、この、この店はどうなるのですか。親父さんはもう……」
 ホスマをさえぎった。そこには、数十年間〈夕暮れコボルト〉亭と共に生きてきた男がいた。
「もう、いいのだよ。わしが長年貯めてきた金がある。わしが死ぬまで生きるだけの金は十分にある」
「今日の仕込みをしてしまったので明日、旅立ちます。ありがとう、ございました」
 今日は最終日だということが昼前には、付近に十分に広まった。
 グラスランナーは昼の少し前に、サベックと共に冒険者の店に行った。サベックは遅めの朝食を取りにやってきていたのである。
 料理屋の前を通る道の端には、名もなき草たちが光を求めて、精一杯伸ばしていた。


   
 ウェーブヒルからほぼ一日歩くと着く地点にその家はあった。家には男が一人住んでいただけである。
 昨晩、この家に住む男は、長い筒を空に向けて眺めていた。ここでもやはり、天駆ける流星が見えた。ホスマが見た地点の北東の方向に位置する家から見えた星の動きは、ホスマが見た星の動きと基本的に同じなのだが、だいぶ相違があった。それは、だんだんと星が大きく、明るく、赤く見えてきたことである。
 これは近くに星が落ちたと判断させるのに十分なことであろうか。男は落ちたと判断した。
「天駆けるは流星、地に堕ちるは隕石。隕石を見るチャンスがくるとはうれしいものじゃわい。かっかっかっかっ……」
 男は一人呟いた。男は魔術師ギルドから正式な魔術師にしか与えられないローブを着用していた。男の名はディアムという。「星を見る者」の二つ名を称している。ディアムは導師として十分な力を持ち、知識も豊富である。ディアムは、星界についての研究をするために賢者の学院からここに移り住んだのだ。年に一、二回はウェーブヒルへ行くことはあるが、自給自足の生活をしている。彼は「占星術」を「天文学」に高めて航海や旅に役立たせようとも考えているので、あまり、他の賢者に好まれていない。
 ディアムは調査の人手獲得のためにウェーブヒルへと向かった。


   
 コムという神を知っている者は少ない。コムは道を守る神であるといわれている。道を守るということから、信仰者は、商人や人生を道と捉える者たちなどである。
 コムの教会は街道沿いに建てられ、神官たちは毎日、街道の警備や点検に努めているのである。放浪するコムの神官戦士もいる。大陸中の道を点検し、補修するのである。また、神官の中には生き方を追求することに一生をかける者もいる。宗旨がはっきりしていないのである。
 さて、コムの教会の窓から男が一人空を見上げていた。男はウェーブヒルのコム教団の神官戦士長である。
 流星が見えた。
 落ちていった方向を彼は憶えた。明日、街道沿いに落ちたか調査をしに行こうと決意した。もちろん、教会から人員を割けないので冒険者を雇うのである。
 男は司祭長に話をしに中に入っていった。彼の名はマブダルという。


   
 シキャレたちとサベックたちは、〈地を這う烏〉亭という冒険者の店の前で出会った。トルテスが口を開いた。
「あなたは〈夕暮れコボルト〉亭の名料理人のホスマさんではありませんか」
「ええ、そうですよ。店をやめて、冒険に出ることにしたんです」
 トルテスとホスマのやりとりを聞きながらサベックは、シキャレにこう言ったのである。
「美しいエルフのお嬢さん、我ら二人と共に冒険をしませんか」
 美しいと言われたシキャレは照れてしまって口を開けなかった。トルテスとホスマは料理人としての話で盛り上がっていた。そして、サベックのシキャレに対する誘いを聞いて、盛り上がっていた料理人二人は一緒に冒険をすることを決めたのである。
 こうして、四人でパーティーは結成されたのである。リーダーは料理人であり賢者でもあり、盗賊でもあるグラスランナーのホスマである。そして、盗賊でハーフエルフのサベック、世グナの神官戦士にして飴細工職人のドワーフであるトルテス、精霊魔法と古代魔術の使い手で飴細工職人見習いのエルフのシキャレ。このパーティーは、いったいどのような冒険をするのであろうか?

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解題

 高校時代に書いた文章です。もともとは、ソード・ワールド短編コンテストをきっかけに一晩で書いたものです。
 ですが、大学時代に自分で設計した世界を舞台にするため、修正の筆を入れています。こんな文章まで掲載するのだから、よっぽど、新しい文章を書くのがめんどくさいんでしょう、私は。

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