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ふう えん ひょう はん

風烟飃泛

〜〜飃泛の章〜〜

第1話 星空の唄

『風青葉亭』
 その店は古かった。いつからそこに、その店があったかを知る者は客の中にいなかった。そんな店があった。
 トーマスというのが、主人の名である。彼はいつもカウンターをふいていた。客が用を言い出さなければいつもそうだった。だから、カウンターはいつもきれいだった。
「流行りの酒場にゃ、色気がなきゃな」
 客があるときこう言ったという。が、トーマスは黙ってカウンターを拭き続けていた。客というのは、むろん荒くれ者だらけだった。冒険という生業の荒くれ者が相手の酒場が風青葉亭だった。
 その店はガルデンという街にあった。そこは、古い空気と新しい風がせめぎあう地であった。隠された神話を持つ地でもあるが、それを知る者は少なかった。ゆえに物語は停滞を破り現われるのだった。

※  ※  ※

 風の強い日だった。夏の訪れを告げる初夏の風だ。
 向かいの鍛冶屋の軒先の看板が根もとから折れていった。昨年もすごかったが、その年の風もひどかった。
「オールジアとロードハルでグレーヌ姫が旗揚げしたっていう話はきいたか」
「いや、聞きませんよ、カウロ」
 腰に手斧を2つ下げた騎士がそう答えた。問い掛けた男も騎士も同じような騎士鎧を身に着けていた。問い掛けたカウロという男は騎士の前に置かれていた酒杯をぐぃとあおり一息つき、口を開いた。

酒場にて

「はい、ご注文の羊の串焼きとビールね」
 騎士たちの隣りの卓に女給が酒と肴を置いて去っていった。
「おやっさん、いつの間にべっぴんなウエイトレスなんて雇ったんだ?」
「男の酒場に女はいらないんじゃなかったのか」
 などなど久々に帰ってきた冒険者たちが声をかける。
「いやねぇ、お父さんを困らせないでくださいよ」
 トーマスは「仕込だ、仕込だ」などと口走りながら、料理場の奥へと逃げている。が、奥から女給に声をかけた。
「あんまりお客さんの迷惑になるんじゃねぇぞ、トワン」
 そのあとは、我関せずといったようだ。
「へ〜〜、トワンちゃんっていうんだ〜〜」
「きれいだねぇ〜〜」
 トワンは誉められた御礼と初顔見せということで、サービスの酒瓶を持ってくる。その運ぶ仕種は年季が入っているようにみえた。
「私、一月前に帰ってきたんです。これからはとうぶんここで働きますのでよろしくお願いしますね」

「ところでトゥル、あの女給は見た目以上の存在のようだな」
 カウロは声を潜めつつ、目線をトワンに向けて囁いた。
「べつにそんなことはどうでもいいんじゃありませんか。それよりも姫の話をきかせてくださいな」
 カウロの話している相手の騎士、トゥルは手斧を提げた話相手の喉のために蒸留酒を注いでやる。
「うむ、ま、とりあえずは女給の正体はたいした問題ではないな。では、さきほどの続きだな」
 また、カウロは酒を喉に注ぎ込んだ。喉に冷たい熱さが染み込んでいく。
「王国を頼りオールジアにて旗揚げした姫、コム教団を頼りにロードハルで旗揚げした姫、2つの姫の噂がある」
「ガルデンの血筋を持った在命の者はグレーヌ姫、ただ一人。と聞いていますが」
「両方ともグレーヌ姫を名乗っているのだから、どちらかは騙り、ということになるだろう。もっともオールジアの姫はガルデンにまだ残るレジスタンスにいたというし、ロードハルの姫は王より任命されていた護衛官である〈絶望の牙〉に守られているというしな」

 この酒場にある個室では、四人の男たちがカードに熱中していた。その日、一人勝ちをした男は後日こう語ったという。
「まさか、侵略で娘をなくした俺が、侵略軍相手に賭けして儲けられるなんて思わなかったぜ。これじゃ、ガルデンのときと大して変わらんな」

『星の行方』
 ガルデンとセリアの位置する物語の舞台は〈小王国群〉と呼ばれていた。その地域は強大な三国家の緩衝地帯として存在している。一見、無秩序にたくさんの都市国家が乱立する地域である。みな、虎視眈眈と領土拡張を狙っている地域だ。
 そのようななかで、昨年古代よりの《神子》と呼ばれる謎の力に守られていたガルデンがセリア首長国と名乗る隣国に占領されたのだった。あれは、星下暦329年の春の始まりのことだった。だが、時はすぎ、今は330年の初夏である。
 セリアはコメーテス帝国の力を借り、軍備増強に努めてきていた。そして、ガルデンより亡命してきた男の知識により、《神子》不在の年代を知り、攻め込んだというわけだった。むろん、超越する力のないガルデンは軍備増強に努めたセリアの敵ではなかった。
 コメーテス帝国は大陸3強国の1つで、大陸の北西部に位置する、バランスのとれた国家だ。完全な封建領主制をとっているが現在は十分に機能している。あとの3強国は、大陸の東に位置するアタビス王国、南部に位置するトゥム・サルム連合王国だ。王国は3強国の中で古い文化を誇り、退廃的な雰囲気に覆われた国家である。連合王国は王国の侵略に対し、騎馬民族らが結成した緩い統一を持った国である。若い国家だけに国全体がいきいきとしている。
 大陸の名は、バランガベルト大陸といった。

『歯向う人々』
 村があった。その村はガルデンの南西に2日ほど歩いたところにあった。
 名はセリタといった。

 その村が歴史に出てくるのは一人の名のない戦士が訪れてからだった。戦士はクライシスニードルと名乗った。彼は人々が自らの手で政治活動を行うことを望んでいた。我等の時代での民主主義などという概念を目指していたと伝えられている。
 彼は訪問して半年で、そのセリタ付近の村々を自治政権としてまとめあげることに成功した。そうして、弱小勢力ながらも〈小王国群〉の一勢力と認められるほどになった。

 その村を一人の男が訪れた。彼は村長と面会し、書状を渡し去っていった。書状にはガルデンのレジスタンス活動を援助してほしいとある。村をあげて語りあい、結論を出すことにした。

 一方、ガルデンの裏町。地下で男が一人帳簿をにらんでいた。どうにでもいるような商人風の男だ。全身を不平で震わせながら、帳簿をつけている。
「くぅ〜〜、人がいないぞ。ディストも姫も出ていってしまったし、残っているのに大した奴はいない。これじゃ、反抗活動の余裕はないぞ。地下に潜伏しているだけでどうしようもない……」
 最盛期の3分の1を迎えているレジスタンスは、必死に生きようとはしていた。

『法のもとへ』
 扉が激しく押され、男を招き入れる。その激しい音に風青葉亭の中にいた面々は一斉に入ってきた男を見る。カウロだった。
 彼は息も切れ切れ、こう語った。
「女給が倒れているぞ!」
 親爺が、冒険者のグループが、トゥルが声にならない声をあげる。
「何!」「だって!!」
 トゥルを除く人々はほどんど出ていった。トゥルは店番を自主的にかってでた。

 トワンは人気のない裏通りに倒れていた。
「近くを歩いていたら、突然耳を刺す轟音がしてな。慌ててここにきてみたら、L字形の棒を持った黒ずくめの奴が去っていった、というわけだ」
「追い掛けなかったのか!」
 第一発見者のカウロに対し、冒険者の一人が問いかけた。
「そりゃ、むろん追い掛けた。が、T字形の棒を取り出し空に飛んでいったんだ」

「トワン様! いかがなされました? 私が油断しておりました。トワン様を買い物などのようなつまらない用事で使った私が悪うございました。お許しください……」
 トーマスという親爺はトワンをつかみつつ、号泣していた。

 死体の側には「ジルダン」という血文字があった。

腕組み

『占領者たち』
「どうも最近、総督の報告に不審な点が見られます」
 ガルデンから帝国に2日ほど近付いたところにある都市国家、セリア首長国。そこの一室での会話である。
「何がおかしいのかね」
「報告には異常なし、とあるのですが、私の放っている密偵によりますと治安の悪化が報告されているのです」
「ほぉ、レジスタンスとかいう組織は十分痛め付けたのではなかったかな」
「いえ、レジスタンスとは別組織のようです。“法”“ジルダン”などの語が現場に残されているのが多いようです」
「そうか、まぁしばらく様子を見ようではないかね」
 報告を持った男は部屋から出ていった。残った男はまぶたを閉じた。

第1話「星空の唄」完


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