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4−3(ディストの物語)


 黴の臭いが鼻をさす。
「まったくくさいのぉ」
 ディスト=バランティス、ラン=ボルト=グラヒム、グレーヌ=ガルデンの一行は、崩れかけた廃屋で朝を迎えた。外は雨である。冬の雨は心底、体にこたえる。
「姫様、おめざめのようですね。外はまだ降ってますよ」
 ディストは外へ通じる扉から空色を眺めつつ、釜処に火を起こそうと難儀している。
「この天気じゃ、今日は進むのは無理ですねぇ〜〜」
 一行の護衛役である騎士、ランは盾を磨いている。もう一人、護衛の戦士がいたのだが、彼はもうこの世界にいない。
「そういえば、セリア出身の魔術師が《神子》に選ばれたって噂は聞きましたか」
 リンゴにかじりつきながら騎士は問いかける。
「魔術師……。それでは《神子》が姫の助けにならないということか」
 ディストは落胆するしかなかった。
 だが、姫は微笑んでいた。どことなくそれは危険な香りの風を放っているようだった。

 昨晩も雨のなか必死に追手をまき、ようやくここにたどりつき休んだのである。だが、彼らの心にゆとりはあった。オールジアでのアタビス王国との交渉がうまくいっているという報告があったからである。
 彼らはグレーヌ姫をつれ、王国へ亡命しようとしているのだ。セリアがコメーテス帝国の支援をうけている以上、対抗上王国もガルデンを支援せざるを得ない。

 翌日、一行が再び進み始め、見たものは追手らの死体であった。その死体はなにかしら強大な質量につぶされたかのようであった。
「姫様、御覧になってはいけません」
 ディストの手が姫の視界を覆う。手が顔の暖かさを感じ取る。
「死体には血が残っていないようですよぉ〜、いったいどういうことなんでしょうかねぇ〜〜」

 彼らはやがてオールジアへ到着した。その旅路では幾度化先程のような死体を見かけたという。
 親切にも一行を占ってくれようとした辻占いもいたが、その老婆は占いの最中に痙攣して果てた。そのようなこともあったのだ。


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