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3−1(クルトの物語)


「マイヤー? おい?」
 クルトがマイヤーのもとに着いたときには、もはや彼は絶命していた。側には耳が一つ落ちていた。

――? 賊は、まさか?
 クルトがグレーヌ姫の部屋の扉を開けると、杖を構えた女がそこには立っていた。
「ここは通しませんよ。さ、姫様をお連れください、さぁここは私にまかせて!!」
 炎の中、杖を構えた女は奥にいる人影二つにむかって声をかける。男と女の人影だ、一つは女、グレーヌ姫か。とすると、もう一つが賊か! マイヤーを殺した!

 クルトが中に入ると、女は杖を掲げる。すると、奥の人影と自分との間に炎の壁がせりあがってくる。
「女! 邪魔するか! 何者だ?!」
「《絶望の牙》シェーナといえばおわかりでしょうか」
 シェーナは悲しみをたたえた声で名乗りをした。杖は炎の輝きを吸い込みつつ、真紅の輝きを増していく。
 《絶望の牙》、そのものは「古えの蜘蛛」の牙の一部を素材とした武器を持つ戦士として帝国の情報網には引っ掛かっている。もと冒険者だけあり、予想外の作戦で様々な戦いをかいくぐってきたという生きた伝説だ。伝説の1割の実力としても、クルトのかなう相手ではなかった。
「伝説なぞは糞くらえ!!」
 クルトは全神経を剣先一点に集中させ、飛び込んでいった。
 それはシェーナの掲げる杖を中心とした円状の力場にとらわれ、ある点より先には進まなかった。
 それから剣と力場は進退極まらない一進一退を繰り返す。しかし、それも屋根が崩れ落ちてきたことにより終わりとなった。対する二人の合間に落ちてきた残骸を身を退かせ、命を拾った二人は視線が通らなくなる。
「姫様も無事に出られたようです。また、あなたの命を奪わずにすみました。あやうく本気になるところでした、さすがは帝国から派遣されるだけはありますね。今度会うときは戦いたくありませんわ」
 シェーナは立ち去ったようだ。奴は涼しい顔をしていたというのに、俺は全力でも破れないとは……。くっ、さすがは《絶望の牙》。


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